形態測定学関連講演アーカイブス
                                                                                                                                                                                       
日本生態学会第65回全国大会 自由集会 W03 2018年  3月14日

道具としての形態測定学:形の解析から見る過去と未来

企画者: 高橋一男(岡山大・環境生命)、立田晴記(琉球大・農)

「生物形態学と文化進化学の接点としての形態測定学」 
三中信宏(農研機構)

講演要旨: 生物と無生物の区別を問わず,形態の観察から得られた差異と多様性をどのように体系化するかは,さまざまな学問分野でつねに生じる問題である.生物形態を測ることを通して得られる知見と意義についてはこの自由集会で繰り返し取り上げられてきた.今回は考古学における遺物の“形態” に関する形状の比較と分類に焦点を当てる.出土した遺物の形態に関心をもつ考古学者たちが,生物学における生きものの形状分析の理論と方法に注目してきたのは当然のことだろう.考察対象としての考古学的出土物と生物体では形態の生成過程や変遷様式にはとても大きなちがいがあるが,幾何学的な“かたち” という点では両者には本質的なちがいは何もない.広い意味での考古学者と生物学者たちは分野を超えた普遍的な “形態学者”としての視点を堅持しているといえる.とりわけ,生物形態測定学が現実の生物形態を抽象化することで幾何学的な “かたち”の情報を抽出しようとしたのとまったく同じ学問的動機は,19世紀末のオスカル・モンテリウスら「型式学(typology)」を構築した初期の考古学者たちを起源として現在にいたる研究の系譜を裏打ちしている.考古学における遺物という文化構築物の形状変化を文化系統学的にとらえようとするスタンスは,形態測定学という手法が自然科学と人文科学の壁を超えてつながっていることを示唆する.

参考文献:三中信宏 2017. 考古学は進化学から何を学んだか.所収:中尾央・松木武彦・三中信宏(編著)『文化進化の考古学』勁草書房,東京,
pp. 125-165.

「地質時代毎の古生物の形態的多様性をいかに評価するか」 
生形貴男(京大・理)

講演要旨: 20世紀終盤以降,化石産出記録の大規模データベースに基づく情報集約型古生物学が台頭し,古生物の多様性変遷史の研究が大きく進歩した.今日では,分類群数のような集約・処理が容易な情報を対象に,データベースへの収録項目や,多様性評価におけるサンプルサイズ効果の補正方法など,共通の基盤が整備・利用されている.一方,形態的特徴については,高次元情報である上に,系統によってボディープランが異なるので,共通のプラットフォームでデータを集約・解析できるほど一筋縄ではない.特定の生物グループについて形態的多様性の変遷史の復元を試みた事例研究も少なくないが,地質時代毎の形態的多様性についての従来の評価方法は,データベースに採録されている産出記録とリンクしていないので,形態の頻度分布を適切に反映しているとは言い難い.本発表では,化石記録のオンラインデータベースであるPaleobiology Databaseに採録されている種毎の化石産出頻度の情報を用いて,地質時代によって異なる化石記録の不完全性の効果を補正して形態的多様性を評価する方法を紹介する.また,この方法を用いてアンモナイト類の形態的多様性の変遷史を復元した結果についても報告し,アンモナイトの進化史における分類群多様性と形態的多様性との関係についても併せて考察する.

「形態測定学の異分野融合:伝統的,幾何学的,…?」 
野下浩司(JSTさきがけ,東大院・農)

講演要旨:  対象の「かたち」を測るための理論・技術体系は形態測定学(morphometrics)と呼ばれる.古くは,類型化に基づくカテゴリカルな評価や興味ある対象の各部分の長さや角度,構成要素の個数,あるいはその集合によって“かたちを測る”,伝統的形態測定学(traditional morphometrics)が用いられてきた.幾何学的形態測定学(geometric morphometrics)に至り,対象間の相同性が認識でき剛体的な性質を仮定できる場合には,形状(shape)として対象の「かたち」を取り扱う枠組みとして結実した.すなわち,対象が同じような構成要素からなる,対象に関節などの自由度が存在しない(無視できる),といった仮定が成り立つ(そのようにモデル化できる)ならば,かたちの解析が過不足なく可能になったといえる.

 一方で,我々は未だ「部分が組み合わさった複雑な形態形質」や「相同性の認識が難しいが同じ発生的基盤で作られるパタン」を比較する一般的な手段を持っていない.幾つかの理論形態モデルを用いたアプローチが考案され,個別の課題解決に寄与している.これが一般的な枠組みへと発展するのか,あるいは各問題に対し個別にモデル化を行い続けるのか,議論が必要であろう.近年の技術的革新はその止揚を実現するかもしれない.画像解析,とりわけ深層学習を用いた画像認識技術,は物体認識などの類型化はもちろん標識点設定の無人化を達成しつつある.私は,高効率な計測による個別のモデル化支援は一つの可能性と考えている.

 形態測定学はその成り立ちから既に分野融合的な研究領域ではあるが,こうした技術を取り込む,あるいは理論的背景を維持して介入することで,積極的な異分野融合が進んでいくことが期待される.本講演では,従来の幾何学的形態測定学に限らず「かたち」を測るための理論・技術に関する研究を紹介し,今後の形態測定学がどのように広がっていくかについて議論したい.

Copyright c Kazuo Takahashi    Last updated: 27 April 2017