形態測定学関連講演アーカイブス
                                                                                                                                                                                       
日本生態学会第62回全国大会 自由集会 W28 2015年  3月21日

道具としての「形態測定学」:昆虫のかたちの定量化法

企画者: 高橋一男(岡山大・環境生命)、立田晴記(琉球大・農)

「昆虫形態学の形態測定学への貢献の歴史」 
三中信宏(農環研/東大・農生)

講演要旨: 「かたちを測る」研究の歴史を振り返るとき,計測が容易な生物は格好の研究対象だった.堅牢な内骨格をもつヒトや魚類とともに,外骨格や翅脈をもつ昆虫が形態測定学の研究材料として広く用いられてきたことは十分に納得できる.しかし,単に標識点の座標データや輪郭の曲線データが取得しやすかったという実用性だけがその理由ではないだろう.そもそも標識点ベースの幾何学的形態測定学は誕生してきた背景には,長年論じられてきた相同性(homology)の概念の定量化という流れがあった.さらに時代をさかのぼるならば,相対成長(allometry)に関する数学理論もまた個体発生と系統発生の関わりを定量化しようという動機があった.このように,比較形態学の概念あるいは理論に関わる研究史のなかで昆虫が果たしてきた役割は,ルーツをたどれば昆虫形態それ自体が “視覚化” されてきた長い歴史とつながっていく.昆虫のゲノム情報が大量に蓄積されてきた現在でも,なお昆虫の形態測定学が存在意義を持ち続けている理由もまたそこにあるだろう.

講演資料(pdfファイル)

「画像認識技術を活用して生物多様性を読み解くー生物多様性創出機構としての擬態現象」 
橋本佳明(自然研・兵庫県大),大橋瑞江(環境人間・兵庫県大),木村敏文(環境人間・兵庫県大),池野英利(環境人間・兵庫県大)

講演要旨: アリ類の種数や個体数が極めて高い熱帯雨林では,アリ類に擬態する生物の種多様性も高いことが知られている.捕食性昆虫やクモ類には生得的に「アリ形」を忌避する習性があることが実験的にも確かめられており,熱帯でのアリ類多様性の高さがアリ擬態防衛をする生物の高い多様性を創出していると予想される.しかし,同所に出現するアリ類とアリ擬態者の間で体型や体色等のパターンにマッチングが見られることを,どのように客観的に判定するかなど様々な難しい課題があるため,熱帯でのアリ擬態現象の研究は記述的な観察にとどまってきた.そこで,我々はOpenCVとPythonを活用して,アリとアリ擬態者の「似ている度合い」をコンピューター・ビジョン技術で評価する手法の開発を試みた.OpenCVは画像処理や認識,動画解析に必要な300以上の関数が実装されたオープンソースのコンピューター・ビジョン・ライブラリで,高度なデジタル画像処理アルゴリズムを手軽に利用できる.バージョン2.0系以降はインタプリタ言語のPython用インターフェイスが提供されたことで,画像処理の専門家でなくともOpenCVのライブラリを利用したプログラムを簡単に作成できるようになった.本講演では,開発した擬態類似度の判定手法を用いて,東南アジアの熱帯林でアリ類とアリ擬態クモ類の多様性のアソシエイトを解析した調査の結果を紹介するとともに,現在開発を進めている動画解析技術を活用したアリとアリ擬態クモ類の「動き」の類似度判定手法についても述べてみたい.

講演資料(pdfファイル)

「マイマイカブリにみられる巨頭型と狹頭型の定量化」 
小沼 順二(東邦大・理)

講演要旨: カタツムリを専門的に採餌するオサムシでは、「巨頭型」と「狭頭型」とよばれる形態変異が世界中で生じている。巨頭型とはオサムシの頭部と胸部が横に肥大した形態型である一方、狭頭型とはそれらが縦に伸張した形態型を意味する。このような形態変異は昆虫やミミズを主食とするオサムシでは生じておらず、カタツムリを専食するオサムシでのみ報告される。なぜ陸貝食のオサムシでおいてのみ、このような形態分化が生じているのだろうか。演者は、代表的貝食性オサムシであるマイマイカブリに焦点をあて、生態学や行動学、形態学的研究から、カタツムリ食への採餌適応が貝食オサムシの形態分化を引き起こした可能性を指摘する。また、量的遺伝学や分子生物学的手法を用いて行った、マイマイカブリ外部形態の遺伝基盤機構の研究について紹介する。以上の結果に基づき、マイマイカブリ外部形態の適応進化とその遺伝基盤の関連性について議論を行う。

Copyright c Kazuo Takahashi    Last updated: 11 Mar 2013