形態測定学関連講演アーカイブス
                                                                                                                                                                                       
日本生態学会第61回全国大会 自由集会 W05 2014年  3月14日

道具としての「形態測定学」:生態学と周辺分野との交差点

企画者: 高橋一男(岡山大・環境生命)
コメンテータ:立田晴記(琉球大・農)

「涙なしの形態測定学:これから学ぶ人たちのために」 
三中信宏(農環研/東大・農生)

講演要旨: 幾何学的形態測定学は,1970年代後半に新たな学問領域として成立して以来,短期間に理論面・応用面の両方で研究成果を蓄積してきた.創設期から科学コミュニティーとしてはかなり小規模だったことが,さまざまな新手法を生み出すとともに,試行錯誤的な提案も数多くあった.現在の幾何学的形態測定学の主要な方法は使いやすいコンピューター・ソフトウェアに実装され,ユーザーの裾野をさらに広げつつある.個体群内のあるいは個体発生での表現型変異を解析したり,系統樹上での形態形質の進化的マッピングにおいてそのような形態測定学の道具は日常的につかわれることになるだろう.その一方で,統計学や系統学の歴史が物語るように,何も思慮をめぐらすことなくソフトウェアが“勝手に”結果を出力してくれる時代が形態測定学にも到来しているのかもしれない.生物学と数学と統計学の境界領域に開花した形態測定学をこれから学ぶユーザーが単なる “ものまねお猿さん” から脱却するためにはどうすればいいのかについて話題提供したい.

講演資料(pdfファイル)

「古生物学と形態測定学」 
河部壮一郎(岐阜県博物館)

講演要旨: 幾何学的形態測定学が成立して以来,古生物の分野でもそれを取り入れた解析が行われてきている.しかし古生物学,特に古脊椎動物を扱う場合においては,どうしても研究対象が主に化石であるが故に,幾何学的形態測定学をうまく使い切れていないと感じられる研究が多くある.その原因として古脊椎動物化石は,数が少ない,破損・変形を被っていることが多い,大きい,重い・・・などが考えられる.こういった問題を抱えながら,古生物学においてどのように幾何学的形態測定学と向き合ってゆけばよいのだろうか.本講演では,近年見られる幾何学的形態測定学を用いた古生物学的研究の動向や具体例を示しながら,古生物学における幾何学的形態測定学の問題点とこれからの可能性について考えてみたい.

講演資料(pdfファイル)

「植物育種研究における形態測定学的手法の応用」 
吉岡洋輔(筑波大学生命環境系)

講演要旨: 葉,花,果実などの植物器官の外観に関連する形質は育種の重要な対象形質であり,植物育種分野ではこれら形質の効率的な改良を可能にする育種技術の開発や,遺伝的メカニズムの解明を目指した研究が精力的に進められている.外観に関わる形質の中には,複雑な形や色模様など,客観的な評価や多検体の効率的な評価が難しい形質が数多く存在する.演者はこれまでに多様な植物器官形質の客観的・定量的評価法の開発を目指し,主要作物の葉,花,果実及び種子を対象にして,デジタル画像情報に基づいた新しい評価法の開発に取り組んできた.また,既存または新たに開発した形態測定学的手法を,遺伝・育種学,栽培学及び農業生態学分野における種々の研究課題に応用し,手法の有効性を評価するとともに,当該分野における技術的・科学的知見の獲得を目指した研究を進めてきた.本講演では,楕円フーリエ記述子に基づく形態測定学的手法を用いたキュウリ果形態の遺伝解析と,アブラナ科作物等の花形質に対するハナバチの選好性を明らかにすることを目的にした行動生態学的解析の結果について紹介したい.

講演資料(pdfファイル)

「形態測定情報からモジュール構造の抽出 -蛾・蝶の擬態翅模様を例に」
鈴木誉保(農業生物資源研究所)

講演要旨:環境への適応には,生物の’かたち’の統合や再編をともなうことがある.形態要素どうしの統合化によって機能的な単位が形成されたり,あるいは環境の変化に応じて新たな機能単位へと再編成されたりする.この適応にともなう形態進化のダイナミクスは,形態統合とモジュール(morphological integration and modularity)という概念として整備されつつある.最近では,これらを定量化し解析する方法の開発がすすみ,シクリッドやアノールなどといった動物の適応現象にも適用されつつある.
 本セミナーでは,概念-定量-解析の一連の流れをできる限り具体的にかつ平易に説明したい.はじめに形態統合とモジュールの概念を概説する.次に,幾何学的形態測定法(geometric morphometrics)をもちいたかたちの定量化について簡単に述べ,その量的遺伝学との関連についても触れたい.最後に,計測した形態情報からどのように統合構造やモジュール構造を抽出し可視化するのかについて説明する.題材として,演者がもちいている枯葉や苔に擬態している蛾や蝶の翅模様をもちいる.

※注1 モジュール構造の抽出方法については,演者が開発しすでに論文としてまとめたので参考にしてください(参考文献a).)

※注2 形態統合とモジュールについては,入手しやすいであろう最近のレビューを紹介しておくので参考にしてください(参考文献b).)

参考文献:

a. Suzuki (2013) BMC Evol. Biol. 13:158.
Modularity of a leaf moth-wing pattern and a versatile characteristic of the wing-pattern ground plan.
http://www.biomedcentral.com/1471-2148/13/158

b. Klingenberg (2008) Ann. Rev. Ecol. Evol. Syst. 39:115-132.
Morphological Integration and Developmental Modularity
http://www.annualreviews.org/doi/abs/10.1146/annurev.ecolsys.37.091305.110054

c. 鈴木誉保 (2012) 統合とモジュラリティ in 進化学事典, 共立出版 pp718?720.


Copyright © Kazuo Takahashi    Last updated: 11 Mar 2013