形態測定学関連講演アーカイブス
                                                                                                                                                                                       
日本生態学会第60回全国大会 自由集会 W04 2013年  3月5日

道具としての「形態測定学」:形態測定学でどこまでやれるか

企画者: 高橋一男(岡山大・RCIS)
コメンテータ:立田晴記(琉球大・農)

形態測定学と系統推定論:連続変量のもつ系統学的情報について 
三中信宏(農環研/東大・農生)

講演要旨: 形態測定学と系統推定論との関わりはねじれている.生物体系学の歴史を振り返ると,1960年代にコンピューターの利用を前提にした数量分類学(numerical taxonomy)が登場したのと軌を一にして,初期の多変量形態測定学(multivariate morphometrics)が立ち上がった.形態的距離変量の多変量統計学を方法論的骨格とするこの学派は,理論的および実践的に数量分類学の基本綱領を共有していた.それは系統学に対する徹底的な懐疑主義だった.1970年代後半に産声を上げた幾何学的形態測定学もまた数量分類学のこの方針を残している.その背景には体系学コミュニティの科学社会学的な動態がある.1980年代に生物体系学の世界から駆逐された数量分類学派が移住した先は形態測定学に他ならなかったからである.距離変量から座標変量あるいは輪郭変量へと形態測定学の情報ソースが移行するとともに,これらの連続的形態変量のもつ系統学的情報をいかにして系統推定のために活用するかが新たな問題として浮上してきた.今回の講演では,科学史の背景のもとに紆余曲折を重ねた形態測定学と系統推定論の今後について話題提供する.

講演資料(pdfファイル)

昆虫の翅の定量的比較ー昆虫学における現状 
清拓哉(科博)

講演要旨: 形態測定学の発展に伴い、生き物の「かたち」から、様々な情報を抽出する試みが繰り広げられている。昆虫分類学においては翅が持つ情報は、様々な高次分類群の鑑別形質として用いられているが、種間や地域集団間での違いには一部をのぞき、あまり着目されて来なかった。近年の分子系統学の進展、自動同定システムの開発やデータベースによるデジタル情報の共有化を踏まえて、昆虫の翅に対する形態測定学の応用性の一面を紹介したい。


形態測定学の心理学的問題への応用:かたちと感性の関係 
小森政嗣(阪電通大・情報通信工)

講演要旨: 様々な形を定量的に扱いたいというニーズの存在は,なにも生物学に限ったことではない.近年,感性工学や顔の心理学的研究のように,かたちに関する人間の「感性」を扱う分野において,形態測定学的手法の利用が急速に広まりつつある.ここではまず,ボディソープボトルの輪郭形状データに対して楕円フーリエ解析を行った研究を取り上げ,ボトルデザインの商品ポジショニングの客観的理解や,特定の印象をもたらすボトルデザインの可視化における形態測定学の利用について紹介する.続いて,顔の座標点データと魅力・印象の関係を検討した研究,およびモーションキャプチャ装置で取得された舞踊の時系列データの分析の試みについて紹介する.

講演資料(pdfファイル)

ゲノム情報から形態を予測する 
岩田洋佳(東大院・農学生命科学),江花薫子(生物研),宇賀優作(生物研),林武司(農研機構・中央農研)

講演要旨: 形は、作物における重要形質の一つである。例えば、コメ粒の形の多様な変異は、世界各地で異なる嗜好や用途のもとに行われてきた品種改良の歴史を反映している。作物の形を効率的に改良するためには、その遺伝様式の解明は欠かせない。形の変異がコメ粒の形のように連続的な場合には、まず楕円フーリエ記述子などを用いて形の変異を量的に計測し、次にその計測値の量的変異に量的遺伝学のモデルを適用して解析する必要がある。最近では、次世代シークセンサー等の技術の登場により、モデル生物以外でもゲノム全体にわたる多数のDNA多型を容易かつ高速に計測できるようになってきた。こうして得られるDNA多型データと形の変異の関連を解析するゲノムワイドアソシエーション研究(GWAS)を用いれば、遺伝資源コレクションなどの多数の品種や系統を用いて交配実験を行わずに原因遺伝子を探索することもできる。また、DNA多型データから逆に形を予測し、予測された形に基づいて選抜を行うこともできる。後者のアプローチはゲノミックセレクション(GS)とよばれる新しい育種技術である。GSはDNAマーカーだけに基づき望ましい個体を選抜できるため、育種の効率化・高速化に大きく貢献することが期待されている。本講演ではこのような研究の例として、イネ遺伝資源を用いたコメ粒形変異のGWASと、ゲノムワイドDNA多型に基づくコメ粒形の予測方法についてお話しする。また、生態学の分野におけるこれら手法の応用可能性についても議論したい。

講演資料(pdfファイル)

Copyright © Kazuo Takahashi    Last updated: 11 Mar 2013